世界エイズデー(3)

ガーディアン紙から。



国連エイズ合同計画(Joint United Nations Programme on HIV and AIDS、UNAIDS)が新たに発表した報告書によると、エイズによる年間死者数は2000年代半ばに達した220万人から180万人にまで減少したという。しかし、エイズのまん延に取り組む上で、資金不足が問題となっている。

今回のUNAIDSによる報告書から、エイズの感染状況が変化してきていることが明らかになった。HIV陽性者数は過去最大だが、エイズによる死亡数や新規感染者数は順調に減少している。

同報告書によると、低・中所得国のエイズ治療薬の服用者数は2009〜2010年に激増(20%増)し、現在では660万人に上る。一方、HIV陽性者数は約3400万人となっている。貧困国における治療活動の展開により、約250万件の死亡が回避されているという。報告書は12月1日の世界エイズデー(World AIDS Day)に先駆けて公表され、ウイルス対策の進展とヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官が「エイズのない世代(an AIDS-free generation)」と呼んだ今後の展望に対する称賛を述べている。

しかし専門家らによると、ニューヨークとサンフランシスコで30年前にエイズが発見されて以来、財政支援額は初めて減少しており、今後の進展が危機にさらされているという。国連の見積もりでは220億ドルが必要とされているのに対し、今年、ドナーからの支援額は160億ドルに留まっている。UNAIDSは資金が最も必要である国々を重視する活動枠組みを発表しているが、ミシェル・シディベ(Michel Sidibé)UNAIDS事務局長はガーディアン紙(The Guardian)に対して、資金不足は懸念事項であると述べた。

「支援を削減するときではない。今年は逆転の年なのだ。今は支援を維持するときでも、削減するときでもない」と同事務局長は語った。

今年、科学的な研究結果から、抗レトロウイルス薬には生存を可能にし、感染を防ぐ効果もあることが示された。同治療薬により感染率は96%減少したという。同治療薬が広く入手可能となったサハラ以南のアフリカ諸国からも、感染率の減少が報告されている。ボツワナでは、人々の性行動やコンドームの使用状況は近年変化していないにも関わらず、治療が必要な患者の80%以上が同治療薬を服用したことにより、HIV感染率は2009年以前と比べて30〜50%減少したようだ。

より少ない相手と安全なセックスを行う人々が増えている。この行動の変化により感染率は減少した。しかし、この効果が安定するまでにはしばらく時間がかかると報告書は述べている。性行動の変化によりジンバブエでは1995〜2000年で感染率が減少したが、その後感染率は約1%で頭打ちとなり、1年間に約5万人が新たに感染していた。しかし近年治療薬が導入されたことで、感染率は再び減少し始めた。この最大の効果は南アフリカ共和国で見られる。同国の2009年の陽性者数は560万人と世界一の陽性者数を抱えており、これには15〜49歳の18%近くが含まれている。報告書によると、2010年末までに治療薬を必要とする人々の半数以上が治療薬を服用しているという。

男子の割礼が広く実施されている地域では、この風習が感染率を減少させる効果があると考えられている。割礼により、女性から男性への感染率は60%減少する。

国境なき医師団(Medecins sans Frontières、MSF)のボランティアの医師らは、2000年にアフリカで先駆けてHIVの治療に取り組んだ。同団体は、死者数の減少は大きな進展だが、治療薬により感染が予防されるという新たな研究結果が出た今、より多くの人々がより早く、この治療薬を服用しなければならないと述べた。しかし、支援額の減少により感染者数削減の取り組みは危機を迎えている。

MSFのアクセス・キャンペーンを担当するティド・フォン・シェーン=アンゲラー(Tido von Schoen-Angerer)医師は次のように話す。「HIVエイズに感染した人々の治療を続けて10年以上が経つが、今ほど感染状況が変化する見込みのある瞬間はこれまでになかった。影響が最も深刻だった国々は、科学的根拠のある行動を取ることで、この機会を逃すことなくエイズ感染を食い止めたいと考えている。しかし、行動を起こすための資金がなければ意味がない」。

世界エイズ結核マラリア対策基金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)はその資金の多くをサハラ以南のアフリカのエイズ治療薬として提供しているが、ドナー国政府の関心が他に向いたために深刻な資金減となっている。結果として、来年以降の支援額を減らさざるをえない状況となっている。クリントン国務長官の演説以降、多くの活動家は米国政府がより多くの資金を米国大統領エイズ救済緊急計画(The U.S. President's Emergency Plan for AIDS Relief、PEPFAR)に提供することを望んでいる。同長官は演説の中で、治療薬による治療、男子割礼および出産時の母子感染の予防について言及し、この3つがエイズ感染に終止符を打つ対策になることが科学的に証明されていると述べている。

(Source: Guardian, 21 November 2011)