タウンシップは危ないのか?

 子供の保育園の先生が、南アの報道を熱心にみてくれています。昨日は、カージャックなど犯罪を犯したことのある青年がインタビューを受けていたそうです。
私は、テレビが苦手で(パソコンも、笑)、何も見ていないのですが、報道はサッカーを中心に盛り上げるものと、治安の悪さや社会に蔓延している問題をとりあげるものと両方あるようで、その先生は「何を私たちに伝えたいんだかわからない」と言っていました。
ちなみに、そのインタビューを受けた青年に関しては、ニバルレキレでは大きな存在の仲間のKさん(Kさんにも名前をつけなくちゃ・・)が取材の方たちのアレンジなど仕事をしているので、私としては、自分の知り合いがインタビューを受けたような感じでもあります。
 そして、タウンシップは危ないのか?
 身を守るという意識を、強くもって暮らす必要のある場所であることは確実です。
 確かに普通に暮らしているだけで、レイプ被害者・加害者、服役経験者、暴力沙汰の事件や強盗や窃盗の被害・加害経験者にどうも日本にいるよりもたくさん出会います。日常的にそういう話題が出ると、その感覚に自分自身の危機意識や身体の感覚が自然とシフトしていくので、割と私は普通に暮らしてしまっていました。
 感染者の自助グループの仲間にも服役経験者が何人もいます。一人はカージャックをしていたそうなんですが、彼は車のキーなしで、車を動かしてしまいます。家の車は免許なしで運転、日本だったら絶対に廃車になるようなオンボロトラックです。キーがなくてどうするの?ときくと、コレだよ、と彼が見せてくれた秘密兵器はなんとスプーンでした。
 カージャックは仲間に誘われてなんとなくやってしまった・・という割には、あれこれと詳しい様子でした。
 彼のオンボロトラックが本当にスプーンで動くのか知りたいし、感染し失業中の彼が生計を立てて暮らしていくために、自宅でアーチャ売り(アーチャというのはマンゴーなどをスパイスで漬けた酸味のあるおかずで、アフリカ人は大好き。)をしようという話になりました。アーチャを製造している工場に交渉して安く買わせてもらおうという計画をたて、オンボロトラックで、ちょっとしたドライブにドキドキしながら行ってきました。彼は無免許ですが同乗してくれたお父さんは免許があったので、ちょっとほっとしました。南アは運転の荒い人が多いので、交通事故も多いのです。エンストをおこしながらも、無事に工場に到着。2つ目の工場で交渉成立。アーチャのバケツをいくつもトラックにのせて帰ってきました。
 道中に、なんでカージャックしたの?と聞いてみたけれど、「他にすることもないし、仕事もなかったから」というシンプルな答え。なんでやめたの?という質問には「つかまったし、つまらなかったし、感染がわかったから」と。もともと無口な彼が、心の奥底について語るまでは至りませんでした。彼の一つ一つの言葉を、静かに頷きながらお父さんが聞いていました。
 失業率の高さ、失業対策の不透明さ(日本のような公的な職業安定所はない)なども、犯罪への敷居を低くしているように思います。
女性や子供など弱者への犯罪については、別の機会にしっかりと考えていきたいと思います。
 カージャッカーの友達は、とても見た感じ穏やかな青年で、私の第一印象は「信頼できそうな、いい奴」でした。サポートグループのチェアマンをやっていて、話の理解も早くて聡明です。奥さんも彼も感染しているとわかったときはナタールという別の州に住んでいました。奥さんの身内から責められて一緒には暮らせなくなり(彼の私への説明)、自分の実家のあるテンビサというタウンシップに戻ってきました。
 私が知り合った後の経過の中では、母子感染していた幼い子供を亡くし、その時期はとても辛そうでした。学校の敷地を借りて菜園づくりをしていたときに時期が重なり、「心が少し癒されるから」と、一番熱心に暑い中を熱心に世話に通っていました。お金がないから、家から学校までの長い距離は歩きです。畑への水巻きはふつう夕方に行いますから、終わると季節によっては外は真っ暗です。暗くて怖くないの?と質問しても、「別に。」と笑みを浮べて淡々としています。 男性だからかなと思っていましたが、ある日彼が強盗にあったと報告してきました。通り道にあるスクウォッターキャンプ(スラム)の入り口の草薮に数人の男に連れ込まれて、お金などを出すよう脅されたのだそうです。彼は5ランド(100円弱)が全財産だから持ってっていいよ、と話したら、「それだけなの?」との話になって、感染のことを話したら、「気をつけなよ」と見送ってくれたんだそうです。
 なんだか、笑い話にしていいのか?と思いながら、彼につられて笑ってしまいました。そして、直後なのに平然としている姿に、「もしかして悪いことやってた?」ときいたら、カージャックのことを教えてくれた、という訳です。なるほど・・。どこか野太さのような、何か恐れていないような、達観したところが眼差しにある理由がわかった気がして、妙に納得したのを覚えています。それでも、彼も「本当のツオツィ(不良)は命が怖くない奴らだから平気で人を殺せる。そいつらは気をつけないと」と言っていました。
 
 タウンシップは危ないときもあるけれど、基本は人が暮らしている場所です。暮らす中での様々なドラマがある、と考えるのが良いと思っています。