アフリカ人の乗り物〜タクシー(コンビ)how to use

 タウンシップは危ないときもあるけれど、基本は人が暮らしている場所です。暮らす中での様々なドラマがある、と考えるのが良いと思っています。
 ただ、目的もなく行くような場所でないことは確かです。というのは、特別なものは何もないからです。
 旧黒人居住地区が「タウンシップ」と今は呼ばれています。アフリカ人は自分の住む場所を「ロケーション」と言って、遊びにおいでと100%歓迎してくれます。本当に訪ねていったら大喜びされます。でも同時に、他のタウンシップのことは「危ないから行ったらだめよ」と耳打ちしてきます。それがスクォッターキャンプ(スラム)ならなおさらです。  
 この旧黒人居住地区は、アパルトヘイト後に再開発をされたわけではないので、とにかく広大な住宅地が広がっているだけで、短期間の旅行者が特別に観光をする場所ではありません。暮らしを知りたいという人には魅力だと思いますが・・。
 何より、同じ景色が延々と続く中で、迷子にならないように気をつけなければなりません。目印と呼べるものがない、と言ってよい場合がほとんどです。土地の人でも、同じタウンシップ内でのセクションごとに利用するタクシー(乗り合いバス。コンビとも表現)が違ったりするので、隣のセクションのことは、交通手段なども含めて、さっぱりわからない、という人がたくさんいるくらいです。タクシーを乗り間違えると、延々と続く似た景色に、降りるタイミングを失い、さて終点まで行ってしまおうか、ガラジ(ガソリンスタンド)あたりで降りて道をきこうか・・?とかなり困ったことになります。
 一度タクシーを間違えて乗ったときには、ガラジで降りて道をきいても、「隣のセクションでしょ、わかんないよ」とのことで困り果てました。隣のスパザショップ(小さい雑貨屋)に、たまたま、私が訪ねたいセクションから通っている人がいて、「店長(たぶん家族・・)の了解を得たから任せて」と、ローカルタクシーがみつかる通りまで連れていってくれました。すぐ、と言われた割にはかなり歩きました、アフリカ人の「すぐ」は、最低でも1時間かかるな、と思っておくくらいがちょうどよい、アフリカンタイム表現です。
 こういった乗り間違えなどの失敗をするのは、私がそそっかしいからに他ならないですが、でもタクシーの利用にコツが必要なことは確かです。
 まず日本のような交通案内は一切ありません。タクシーランク(バスターミナル)でさえも、表示のない場所が大半で、看板など見つけた場合には、「おぉ!」と驚くくらいです。タクシーランクといっても、勝手に広場にタクシーが集まるようになって、いつのまにかタクシーの乗り換えポイントになってしまったような草地も多いです。ショッピングモールの駐車場の中でも勝手にタクシーランクができていたりします。
 遠距離を行く別々のタウンシップ間をつなぐ、あるタクシーのルートでは、ドライバーどおしが工夫していて、往ルートと復ルートのタクシーが途中の道幅の広い場所で、互いの乗客を交換し合っても元の道を帰っていくことになっています。その方が、運転していて疲れないんだそうで、別に稼ぎが増えるというわけではないそうです。
 途中で平気でガソリンスタンドに寄るドライバーも多いし、自分好みに車内を飾ってオーディオシステムが充実しているタクシーでは、ローカルの流行の曲ががんがん鳴り響きます。日本だったら車の音楽の騒音は嫌と思っていたけれど、広がるアフリカの空には、がんがんに響く音楽が似合います。
 ガス欠になってとんでもない場所で、乗客全員で降ろされることもまれにあります。ドライバーがうっかりしていたようです。「ごめんガス欠・・!」と彼がつぶやいた道の先には、当分ガソリンスタンドはなかったので、乗客みんなで「あの小学校とかにガソリンないかな」「何で小学校でガソリンなんだよ」とか言い合いながら、いよいよ止まってしまったときには、「ヨ!ヨ!」と皆であきらめて、歩いて目指すセクションまで歩きました。

 乗り合いタクシーの使い方は、タクシーランクで行き先を確認して満席(11〜15人くらい)になるのを気長に気長に待って乗るか、道路途中では手サインを送りながら、走り去る車から正しいタクシーを見つけ停車させて乗るの2方法があります。この手サインがタウンシップごとに違うので、まず覚える必要があります。土地の人に聞く以外に方法はありません。ハウテン州内の遠い大きな都市(ジョバーグやプレトリア)などに行くタクシーですら手サインです。
 タクシーランクを把握し、タクシーランクをつなぎあわせて目的地にたどりつく方法を自分の中で情報としてストックさせていくのが様々なタウンシップをタクシーで訪問するためには一番です。路線図サービスはないので。最後の3つ目か4つ目の、目的のタウンシップのセクションに向かってくれるタクシーに乗ったときが、ようやく「いざタクシーを自力で止めて降りる」ときです。このタクシーまでたどりついたら、あとはひたすら、何のへんてつもないタウンシップの景色を、心がけて記憶に留めるようにしていくと、その後も訪問が楽になります。
 降りる場所ですが、バス停というものはありません。自分で直前にドライバーに指示するのです。例えば「アフターロボット」と言うと「信号を過ぎたらとまってくれ」。これが一番多いタクシーの止め方です。「ライトサイド」と言ったら、信号その他のサインボードの何もない右のわき道を過ぎたところで止めてもらうときの合図です。地元住民の足代わり=タクシーなので、指示のパターンというか、お決まりの止めてもらうポイントがいくつかあるので、突飛な要求にはNOを出すドライバーも入れば、優しい人もいます。
 一番前の席に乗ったときには、運転手に代わって全乗客から責任をもって運賃を回収して、計算して、正しくおつりを皆に渡すという暗黙の役目があります。運賃を集めだすポイントというのも、路線ごとに「発車したらすぐ」とか「あの工場の脇の橋に来たら」とかなんとなく決まっています。
 計算の苦手な私は、最前列に乗るのが苦手です。乗客みんなが「このムルング(ムルング=白人。日本人はたいていムルングとかチャイナとタウンシップではヒソヒソではなく大きな声で指さされます。)は、ちゃんと私たちのタクシーのことを知っているのかしら?」と目をキラキラさせて、私の行動にじーっと楽しそうに注目するのです。知らん振りの人も多いのですが。太ったアフリカンママたちは、今にも笑い出しそうな顔で首をつきだして私の手元をのぞきこみます。タクシーのシステムはわかっているんだけど、暗算が本当にできないので、ドライバーに確認してもらいながら、お釣りを用意する羽目になります。冷や汗ものです。この運賃清算という一仕事をやり終えると、なんだかタクシーの乗客が「あら、合格ね」なんて言ってくれたり、静かに頷いてくれる人までいます。若い人や会社づとめかな?なんて印象の人がいると、バックシートの方で、「小銭ないの?」「両替あなたできる?」なんて、シートの列ごとの集計をきちんとだして、前席に教えてあげる光景を見かけます。
 一番前の席が苦手な気持ちを理解してくれるまでは、友達やドライバーは「ムルングのあなたを責任をもって、安全に乗車させて見送るのが、友達の役目よ」と豪語して譲らず、仕方がないので、運転手の隣の席に乗っていました。すぐに、好きにすれば・・と放置されましたが。
 前の席は後ろよりも安全といえば安全なんでしょうが、地元の人の暮らしを何でも知りたがり・首をつっこみたがる性格の上に、計算のできない私は後ろに座りたいのです。
 でも恐れて一番後ろに乗ると、タクシーの車種によっては日本人の中でも座高が高くて足の短い私は、頭が車の天井につかえてしまって、頭をまげて固まった姿勢で乗ることになり、乗客の失笑を買うことになります。「あれー?」と首をかしげている私に、どうしたの?と声をかけてくれる優しい人でもいれば、「座高が高いのよね」とも説明できますが、見て見ぬふりをしている人は変なムルングだと思っているんでしょうね。
 子連れの人と太ったアフリカンママには2列めのゆとりのあるシートが、日本でいう「プライオリティーシート」のような配慮を皆がするシートですが、満席になった場合は子供が料金無料なかわりにちゃんと立って静かにしています。
 ドアの近くの席だと、降車する人がいる度に当然ながらどかないといけないし、これも面倒です。その席に巨大なアフリカンママが座ってしまったときは「どっこいしょ」と立ち上がってくれても、脇が抜けられない・・でもママの中には一度降車しましょう、なんて発想のない人もいるので、思わず女性陣が後ろからアフリカンママのお尻を押して隙間を作っってみたり。そんな日のタクシーはいつも以上にゆるゆると、気長に目的へ向かいます。ドアや折りたたみ式のシートが壊れているタクシーも多いので、なんとなく、短い手や足をつっぱって人間椅子のような姿勢で座って疲れてしまったりします。
 要はタクシーでは座る席は選べることなら選べんだ方が良さそう、という感じです。
 鉄道とバス旅行が元々好きな「鉄子」の私にとっては、タクシーは大好きな乗り物ですが、自家用車のある友人は、一つの家庭への訪問に一日がかりだし時間がもったいない、とも感じるようです。道路も最短でなく住民用の住宅街を選んだルートなので、私が友人や病院のスタッフや神父の車に乗せてもらった場合には、「道案内が、ローカルすぎる」と言われてしまい、帰り道は彼らは私を頼らずに、地図をみてあっという間に最短ルートを見つけてしまいます。「あら、こんなに早く着くんだ・・」と関心することがしばしば。
 アフリカ人のゆるやかな時間を同じように暮らしたいという方には、この土地に慣れた際には是非タクシーを使ってみてほしいと思っています。
 なお、タクシー内での犯罪はゼロではないようです。アフリカ人にとっての大切な交通手段であり、それで多くの人が通勤して暮らしているわけですから、偏見を抱かないで欲しいと思っていますが、今はサッカーで行こうとしている人などや、旅行を考えている人が、ブログを見てくださっているのかも、と思うので知っていることだけ書きます。
 タクシーで一番聞くのは盗難です。あとは降車後をつけねらって襲う輩もいます。つけねらわれたり待ち伏せされて、携帯電話や腕時計を羽交い絞めにされて盗られた友人や同僚が男女ともに沢山います。レイプという被害もゼロとは言えません。モノを盗られるくらいで済みそうな場合は抵抗しないで、盗られるに任せた方がいい、と被害にあった友人たちの言葉です。抵抗して突き飛ばして、難を逃れたというツワモノも何人かいますが。ツワモノの一人は女性で、「あの男の子たち、ろくなもの食べることができていないのかも。びっくりするくらい、簡単によろけちゃったのよ。でも私は女性だから、簡単にはそういうことをする男の子には手は差し伸べられないわ」と言っていました。
 安全対策としては、女性は歩いている際や他人との密室空間では、自分が妙に注目されているような場合は「要注意」と考えて、可能な限り一人にならないことを勧めます。相手が女性であってもです。
 路上やタクシーの中でだれかと打ち解け親しくなるという経験を、世界を旅してきた方たちなら経験したことがあると思います。でも、南アに限って言えば、日本人の私たちが南アフリカでそのような体験を簡単にできるとは思わない方がよいと考えています。南ア人は相手を信用しリスペクトできるかどうか、の判断は大変慎重です。どうでもいい道端で調子が良い人は、深いつきあいをこちらに求めていない場合が多いのです。アジア諸国の旅の感覚とかなり違うな、と思います。 
 自家用車の所有者の方が被害にあうのは、銀行を出た直後や自宅に入る直前直後のようです。こればかりは、修道服を着た聖職者でも被害にあうのです・・。といって、多くの人が工夫して危機管理をしながら、ちゃんと暮らしを維持している、ということと、危険情報をしっかりと旅行や滞在予定の方は、吟味していかれたらよいのではないでしょうか。短期滞在の場合は、ホテルのゲートの出入りの際などに気をつけるとよいかもしれないですね。
 私の場合は幸い強烈な犯罪には遭遇していません。タウンシップにエスコート役 &タウンシップ教育係を自認してくれている感染者や遺族の友達が多いので、一緒に行動することが多いから彼らに助けられているのだと思っています。本当に、彼らが私たちニバルレキレにとっての、アフリカを知る・ともに生きることの意味など全てを教えてくれる師匠なのです。 
 一応、個人的な安全対策では、夕暮れ以降の外での行動には、かなり気をつかいます。また、タウンシップでもタクシーランクでも、じっと私が何をしているのか知らぬところから見つめている人がいる、ということを意識において行動するようにします。タクシーでもタウンシップでも、楽しい出来事に遭遇することの方が多いのですが、いやな経験もします。クリスマスイブの日に、遺族訪問からの帰途で、タクシーの乗客が女性は私のみ、他が酔っ払った若い男性数人で、しばらく執拗にからまれ、そのうちにコソコソ耳打ちしあっている・・という状況に遭遇しました。日暮れがどんどん迫り、彼らも私と同じ終点で下車するらしい。下車してから私は草原を通って帰らなければならなかったので、危険を感じてドライバーに訴えたところ、ドライバーが良い人で、酔っ払いたちを先に終点よりもかなり手前で全員降ろしてくれて、とても助かりました。
 なお、以前のようなタクシー会社の縄張り闘争は現在は落ち着いているようですが、運賃値上げは頻回ですし、ストもよく行われています。

 とにかく、いわゆるガイドブックの観光名所に行くのならば、相応の交通手段を使うことをお勧めします。空港や都市のホテル周辺は、いわゆる日本と同じタクシーがあります。 また、タウンシップは、わからない人だけで行っても途方に暮れる場所、あるいはトラブルに自分が遭遇するだろうか?という発想だけでなく、土地の人に自分がトラブルをに招くこともあると考えてみることも大切かな、と思っています。
 タウンシップを見たいという方は、案内してくれる土地に住む知り合いか、旅行会社の人のガイドなどを頼んで、行かれることを一番に勧めます。タウンシップは「危険なの?」「貧しいの?」「ソエトだけバックパッカーの自分としては自力で行きたい!」みたいな興味本位で行くのでなく、「アフリカ人の暮らしに触れたい」という温かな関心で、ぜひ知って欲しい場所です。そんな方には、きちんと案内をしてくれる人が見つけられるはずです。

 ゆるやかな時間の流れるタウンシップのことはこれからも、たくさん書いていきますね。