少年の母

しばらく前に、少年がメッタ刺しにされた事件を書いたのを覚えてくださっているでしょうか。

少年は持ち前の勇気ある性格で前向きにリハビリして、年度末(南アの年度末は12月)の期末試験に向けて頑張ろうと、仲間たちに励まさせてやる気になっているところです。

彼はニバルレキレでかかわっているエイズ維持や孤児の中では最年長です。そして最年長の彼が高校を卒業しその後の人生設計をどうするか、迷い試行錯誤する時期にきたのだ・・ということを私達は深く受け止めています。
何年もの間、平均寿命が50歳をきって推移している南アで、どれだけの孤児が生まれたでしょうか。
そしてそのエイズ遺児たちが流れ行く月日の中で思春期を迎えています。
施設で育つ子供たちは、成長段階の中でさまざまなメンタル的な壁を乗り越えていかなくてはなりません。愛着の対象を誰に向けたらよいのか、自分をどう愛したらいいのか、感染している子供の場合は、さらにこれからも自分はだれかの庇護をきちんと受けられるのだろうか。施設後の生活や長年一緒に育ってきた仲間の子供たちとの別れをいずれ経験する時期が近づいていきます。コミュニティで親戚や祖母に養育されている子供達も、失った存在から本来は引き継いでいくはずだった、ライフスキル、伝統的な価値観、現在の南アでの危機管理つまり自己管理の知恵といったものを身につけるのに、苦労を強いられています。
そして、彼らが育つ中で、きちんと手に職をつけ安定した生活を手にいれることができるかどうか、エイズによる親の死をどう心の中で整理してこれたかどうか、これから先自分が誰かを愛し、そして家族を作ることについても語り合える誰かが必要となっていきます。

そういった子供達と、どう一緒に生きていくことができるのか。支えることができるのか。
少年は、私たちにとっては長男といっても良いかもしれません。多くの次男や長女次女・・・子供たちが控えています。

彼自身ともっと語り合ってみたいと思っているところです。彼の人生を私がどのように誰かに伝えることができるのか、彼はどんなメッセージを私達に伝えたいのか。

私が彼の家族(亡くなった家族の含めて)の中で、一番親しかったのは、彼の母親です。彼の母には、彼女の人生をリラトの言葉で皆に伝えてくれて構わないといわれています。

「私の代わりに伝えてちょうだい。生き延びることができたときには、自分でそれをやりたいわ。ようやくそういう夢ができたの。でも、生き延びられるかわからない。リラトが伝えて。」

少年のプライバシーがあるので、母親の名前は仮名で、少しずつ彼女とその家族との過ごしてきた時間のことを書いていきたいと思います。合間合間で、他の話題も書きながらになるかもしれません。

ノンプの最後の話に躊躇しているように、少年の母のことを書くことにも躊躇があるのです。自分が何も見ていなかったような、話してこなかったような気がするのです。贋物の感覚。パソコンに向かう自分の向こうに、ひんやりとした、誰かが横たわり私を見つめているようです。