ずっと涙を見せない女の子だった。
ママのお葬式の日も。
おばさんのお葬式の日も。
おばあちゃんのお葬式の日も。
パパもエイズだった。
今はママの妹が育ててくれている。
家族だけのときには泣いたのだろうか。


ママが亡くなってからは、ときどきパパ方のおばあちゃんの家へ泊まりいった。肉親だし、それに貧しい今の家庭でずっと過ごすよりも、いろいろと行き先を作って、せめて週末だけでも他の家でご飯を食べさせてもらう必要があった。

あまり声をきくことはない。
とても無口だから。静かに、気づかないくらい静かに笑う。
でも静かだけれど、はげしいジャイブ(ダンス)をする。
熱い意志を秘めている女の子。
成績も優秀。家事も本当によく手伝う。
ただ、秘めたる意志はいろんなこだわりにもあって、学校の先生がズボンで来なさい、と言っても、ワンピースで登校する。ワンピースを着たい気分のときは。
おそろいの服でイベントに出るときだって、必ず中には自分の一番来たい服を着こんでいる。たとえ暑くても。
はっきりと、自分の好みのおしゃれがあるから、下手におばさんと洋服屋へ行くかなくても、自分でちゃんと生地が強くて、縫製のしっかりした、かわいい服を見事に見つけ出す。
この前クリスマスカードをもらったら、リボンで足にゆわえつけてパーティーを楽しんでいた。
学校のノートの余りをつかって、いろんな大人からもらったスーパーの広告を上手に糊づけ切り貼りして、紙でできたピラピラの着せ替えドールハウスを丁寧に作っている。彼女の大切なファンタジー
絵を描くのや、お人形遊びが大好き。
いとこの少女達ともとても仲良し。

今年は、パパのおばあちゃんまでもが死んでしまった。
週末に行くところがなくなってしまった。
いとこたちは、まがりなりにも母親と父親がいる。

少女は、一緒に暮らす家族がいるけれど、でも一人ぼっちにまたなってしまった。

少女たちとプレトリアに遊びに行ってきた。
入ったことのない、ショッピングモールで、鯉やオウムを見て、自分一人で洋服を選んで買って、食事を注文して、入ったことのない喫茶店で初めてスムージーを飲んだ。
そして小さな遊園地で遊んだ。遊園地のお兄さんは、何を感じたのか、少女にバンジー大ジャンプの大サービスをしてくれたので、少女は生まれて初めての宙返りを経験して、大きな声で笑った。

帰りの車の中。
車に乗るときの少女のポーズはいつも両手を膝の前にしっかりと合わせて、
じっと前だけを見ているのだけれど、みんなが眠っていたので、恥ずかしくないだろうと思って、肩を抱き寄せてみた。膝の上には別の女の子が熟睡しているから、片手しか使えないけれど、少女の頭をそっと寄せて耳元で語りかける。

何を話しかけたのかは、それは少女と私だけの秘密。
少女が、静かに涙を流しながら、肩に寄りかかってきた。

いつまでも、いつまでも、君に会いに行こう。
君の笑顔を見に。君の泣きたい心を抱きしめに。

安心してね。
誰も君のこと、忘れないから。
責任をもってママから、君のことを託された叔母さん一家とどうか安心して暮らしていってほしい。
いつでも、私達も飛んでいくから。

人形の大好きな彼女に、近々私の友達が人形用の着替えの洋服やいろいろな
ものをプレゼントしたいと言ってくれた。私からのプレゼントは、彼女と従妹達3人仲良く人形で遊べるよう、そしていつかは大切なアクセサリーを入れられるような小さなピンク色のファンシーボックスを3つ。

きっと、静かに静かに、ファンタジーの中で遊び始めることだろう。

彼女に、別れ際「断られたって、私はあなたに会いに来るのよ。だって・・」言い終わらないうちに号泣していたのは、私の方だった。
そんな私を静かに彼女が抱きしめてくれた。

皆で一緒に生きていこうね。