青い脚(1)
スタッフに手招きされた。
あの部屋に、とても可哀想な患者さんがいるの。
私たちじゃ何もできないから、よろしくお願い。
午前の柔らかな光が、病棟の廊下まで差し込んでいた。
その部屋にいたのは、1人の男性。
私はまず部屋を、そっとのぞいてみた。
彼は起きていて、天井をじっと見つめていた。
彼は他の患者さんよりも可哀想なんだろうか?
ゴーゴー。
グンジャーニ。
部屋へ入ると、ゆっくりと彼は私の方に顔を向けた。
どこか痛いの?
私、少しマッサージとかが得意なんだけれど?
イーニャオ・・。
彼は脚が痛いのだと、つぶやいた。
掛け布団をめくってみて、驚いた。
彼の脚は一面、青いカビ、緑のカビ、白いカビで
青白くなっていた。
スタッフは、どうしていいかわからず、
朝の清拭のときも彼の脚にはさわらずにいたようで、
カビはどんどんと増殖を続けていったように見えた。
そして、放っておかれた脚の爪がおおいに伸びているのが
カビたちの間から見てとれた。
カビが生えている脚というのは、どんな気持ちなんだろう。
どんな痛さなんだろう。
人に触ってもらえない痛みとはどんな痛さなんだろう。
全然想像ができなかった。
想像はできなかったけれど、
彼の脚に触ることならできそうだった。