風のふくまま。

トム・ウェイツが好きだ。

一番好きなアルバムは 

BONE MACHINE


この前久しぶりに聴きたくなって
探したけれど見つからなかった。


点々と暮らしてきた間に
いろんなものが手元から
離れていった。

トム・ウェイツも誰かのところに
あるんだろうか。


そう思いながら、
ひょいと

ブリキ缶をあけてみたら
見つかった。

ソウルメイトの
使っていた
歯ブラシと一緒に。


日曜がソウルメイトの命日だった。


再び 何かが
動いた一日となった。


新しい旅に出よう。


喪失の涙から生まれ出る何かを待ちながら。






Whistle Down The Wind  By Tom Waits


これまでの人生
ずっとここで育ってきた
けれど心にはいつも旅立ちの夢

いつか俺は行くんだ
青い瞳の女たちと 赤いギターが待つところへ
裸の河が流れる土地へ


でも実際は夢見る姿とは大違い
相変わらず同じ場所をうろうろ
遠くへ行ったといえば
せいぜい
マーシーとグランド通りの交差点あたり

俺の足は凍りついたよう釘づけのよう
ここにはとてもいられたもんじゃないのに
だけどここを離れる度胸もない

だから一度でいい お別れのキスをしておくれよ
そしたら俺は地獄へでも行こう

それとも風にのって
口笛吹きながら
気ままに旅していこうかな

街角に停まったバス
壁にかかった時計
壊れた風車

そもそも風なんかちっとも吹きゃしないんだ
いままで俺は何度そう毒づき
叫んできただろう

このままここにいれば
錆びついてしまうのがおちなのに

難破船のように乗り上げたまま
このほこりだらけの田舎町に

遠くの空は真っ赤で
世界は炎に包まれているというのに

ここじゃ とうもろこしの方が
俺よりずっと偉そうに生えている

雨のワゴンにつながれたままの犬
道はまるで海のようにぬかるんでいる

けれど
時々草原のむこうからは
風に運ばれ
どこかのダンス・ミュージックが
きこえる

あれは俺が夢見る土地から聞こえてくるのか?
俺のことを待ってくれているっていうのか?

祭りが終わることなく続き
人々は眠ることを知らない
そんな土地があるっていう

それならば
マーレー・ボーンのバスに飛び乗り

風の吹くまま 
口笛を吹きながら
気ままに旅していこうかな

(訳 Erikoyama)