ノンプメレロ(6)
隣のベッドにいたのは、リンディーウィ(仮名)。
エイズ脳症もあって、
ほぼ一日、ホスピスの病棟内を徘徊して過ごしている。
リンディーウィは、
いろいろなことが頭から抜けてしまうので、
歩くための歩行器を忘れて、
廊下の壁に張り付いていたり、
パジャマを着るのを忘れて裸で歩き回っていたり、
他の人のベッドに寝てしまったり、
庭の外れで眠り込んでいたり、
ナースステーションにちょこんと座っていたり・・
ほぼ毎日会った瞬間は
「リンディ・・あらら」と手をつないで、
彼女の行動をリセットして、
やり直すお手伝いをすることになる。
リンディーは、私のことを最初から最後まで
「チャイナ」と呼び続けていました。
そして、「雑用係」と彼女の頭の中に
私はどうにかインプットされたようだった。
ノンプと一緒の部屋に、
徘徊(散歩?)から彼女がようやく戻ってきたときには、
「私のノンプ、調子はどう?」と必ず声をかける。
そして「チャイナ。」と私を手招きして、
お尻のかゆいところを掻いてちょうだい、
ビスケットをちょうだい、
この布団なおしてね、と
ちょっとケアギーヴァーの前の愛嬌と違った、
威厳を含んだようなユーモラスな言い方で、
用事を指示してくれるのだった。
本当に私は雑用のようなものだったので、
リンディーの頼みを、ハイハイときいていく。
そのやりとりが、
ノンプには非常に可笑しかったらしい。
そして、ノンプはリンディーのあっけらかんと、
マイペースに、ユラリユラリとホスピスの中で過ごしている姿と
スタッフとの会話を、いつも笑いながら見つめていた。